第二回 グリースレスについて 【グリースレス】という斬新な機構を取り入れたカートリッジベアリングがサイクリスト達の興味を集めている。「起動トルク」が小さい事をウリにしているのだが実はコレ、「回転抵抗も小さい」 グリースレスで大丈夫か? そんな声が聞こえてきそうだが心配ご無用、実は「保持器」が微細な穴が開いた多孔質樹脂で出来ていてその穴に潤滑油が含ませてある。 ベアリングがボールレースの軌道を転がる際に発熱すると潤滑油が少しずつ染み出してくる仕掛けになっている。 染み出す潤滑油が無くなった時は、このカートリッジベアリングが寿命を迎えたことになる。 グリースを充填することが出来ないからだ 先程、斬新な機構と書いたが実は、目新しくはなく 国内外で先行事例がいくつもある。 下記3例は自転車専用ではないがスウェーデンのSKF の「Solid Oil」や日本最大の軸受けメーカーNSKの「ルブガード 」や 第二位のNTNの「ポリルーブのスポットパック仕様」などである。いずれも原理的には同様で多孔質樹脂の保持器に潤滑油を含侵させていて「回転抵抗が小さい」事を謳っている。 汎用ベアリングなので用途は様々だがグリースが漏れ出ては困るクリーンルームや食品加工機械など清潔を求める環境が主な用途だろう では、自転車用ベアリングとして何故グリースをなくしたいのか? それは、グリースが流体抵抗によって回転抵抗を発生させるからだ。 自転車用ハブのシャフトを指で回しく「軽い!」と評価しているのは「起動トルク」であってこの時の抵抗発生の要因は、主にプリロードによるころがり抵抗、そしてダストシールのリップの接触抵抗である。 しかし自転車が時速40km/hで走行した際、ハブは一分間に320rpmほどで回転している。この際、カートリッジベアリング内部では、ベアリング球が保持器とともにグリースを絡めて流体抵抗を発生させている。 その回転抵抗たるや起動トルクの10~20倍である。ちなみに補足すると夏より冬のほうがグリースによる流体抵抗は大きくなる。 なぜなら気温が低いほうがグリースの粘度が増すからだ。 この理由によってグリースレスが自転車用ベアリングに登場してきた。 一分一秒を争う自転車競技の世界において有利に働く事は間違いない ただしグリースが無いぶん寿命は短いし水が浸入すれば一発アウトだという点は注意が必要だ。 ここまでグリースが悪者みたいに書いたが 実はグリースの開発競争もかなり進んでいる。 ハイブリットカーの台頭によって低燃費がとことん追求された結果、極めて流体抵抗を発生させにくいグリースが登場している。 次回「すごいグリース」で解説します。
インスタ,FaceBook,x などSNSやメルマガなどで連載中の「ベアリングの話」は、工業研究所の先生方の研究成果などをご紹介しながら自動車工業会で長年活動してきた知見を工業技術者という立場で解説しています。
【 ベアリングの話 】
カートリッジ型ベアリングに装備されている「シール」について そもそも何故シールが必要なのかを説いた上で接触型と非接触型について解説。自転車の軸受けにとってやはり水は大敵であって 軸受け内部への浸水をどう防いできたのかなど
ここ数年間、話題を集めているグリースレスベアリング 2000年初頭にはカンパニョーロ社のカルトベアリングもグリース不要という触れ込みで登場したもののやはり潤滑は必要だったとスタイルを変えた。 これほどまでに魅力的、かつ難しいグリースレスベアリングの利点と難点を解説。 近年のグリースレス型はどんな機構を採用しているのかについても紹介した。
前回、グリースレス型をたっぷり褒めた次は、最新型の高機能グリースについて紹介。 ベアリングが発生させる抵抗のほとんどがグリースによる流体抵抗であった事など驚きの事実が 最新型の高機能グリースはどうやって流体抵抗を減らしているのか その仕組みを明らかにする。
自転車の世界でベアリングの材質と言えばセラミックが中心的だが そのセラミックとはどんなもの さらにステンレス鋼、クロム鋼などハイブリッドベアリングについても解説
前回、解説したクロム鋼の熱処理について 「わずか50℃の違いが硬さを別ける」 熱処理の温度と金属組織の変化について 新潟県中央技術支援センターの研究成果を基に解説する。
軸受けの球あたり調整の際、ガタとプリロードの関係は競技用自転車の世界では、メカニックの腕の見せ所とされてきた。その勘所を工業技術者の視点でひも解く またカップ&コーン式のハブに発生するスピン摩擦についても解説した。
ベアリングの話 第3話 に登場する「凄いグリース」でシマノデュラエースのハブをチューンナップしたら抵抗がどのくらい減ったか?ノーマルのカートリッジベアリングから「BlueCeramic」に交換すると何%抵抗が減るのか 実測データ を公開
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