第四回 ベアリングの材質について 写真のベアリング球は、奈良県で製造されたG3精度のセラミック球である。十分な破壊靭性を持っていて自転車ハブのベアリング球として最高である。 黒褐色の材料も日本製である。 (価格的にも十分にこなれている) ベアリングの材料については、クロム鋼、ステンレス鋼、セラミックの3つに大別できる。 まずは金属である2つについて解説したい どちらも主な元素は鉄(Fe)であってクロム鋼(SUJ2)は、炭素鋼の性質をよりベアリングの使用環境から求められる性能を達成できるようクロム(Cr)を1.5%添加したものだ クロムを添加することで焼き入れ性が向上、より高硬度(HRC60 程)になる。これは高級なナイフほどの硬さである。 一方、ステンレス鋼は、錆びないようにもっと多く17%もクロム(Cr)を添加してある。ステンレスと言っても流し台など水回りで多様されるSUS304のオーステナイト系では、焼きが入らず硬度がでないので炭素を加えたSUS440Cなどマルテンサイト系を使う 硬度はHRC57程度とクロム鋼よりは柔らかくなってしまう。またSUS440Cは錆びにくくなるが絶対錆びないわけではない ※ 次回、ステンレス鋼でもHRC60を達成できる熱処理を紹介します。 一般的には、自転車用ベアリングに耐久性を求めるなら内輪外輪には、より高硬度なクロム鋼を用いるべきである。 ファインセラミックについては、白色のジルコニア(ZrO2)と黒褐色の窒化ケイ素(Si3N4)に大別される 白いZrO2の硬度はHRC70程、黒いSi3N4はHRC75~80程とこれ以上硬い素材を探すのが難しい程に硬い 割れにくさを示す破壊靭性は、ZrO2で10MPa-m1/2程、Si3N4は6~7MPa だからクロム鋼の25MPa と比べれると実に割れやすいことになる。内輪外輪ともフルセラミックのカートリッジベアリングを使っていたら外輪が割れたという事例はこの破壊靭性が低いことが原因だ。 (リングクラックの発生) よって自転車用途でよくあるセラミックベアリングの場合、内輪外輪はクロム鋼で球のみセラミックというハイブリット構成になるわけである。 ベアリング球だけでもセラミック製にする効果はあるのか? 弾性接触理論からみれば特筆すべき効果があるか否か次回以降に解説したい。 まず加工特性からは、セラミックの球は、真球度を高める研磨工程において鋼製より容易に真球度を高めることが出来る。 そして錆びない。 この2つの理由から球のみセラミックを採用する意味が十分にある。 また先に述べた破壊靭性についてもベアリング球は、内輪外輪に比べて梁の長さが小さい事、形状が球であることによって十分な破壊強度があると認識されている。 自転車愛好家のインプレ等でセラミック球にしても大してころがり抵抗は軽減されなかった云々の記事が散見されるが おそらく計測精度の分解能が粗かったため差異が見いだせなかった事、またグリースレス式のセラミック球ではなかったことが原因ではないだろうか
インスタ,FaceBook,x などSNSやメルマガなどで連載中の「ベアリングの話」は、工業研究所の先生方の研究成果などをご紹介しながら自動車工業会で長年活動してきた知見を工業技術者という立場で解説しています。
【 ベアリングの話 】
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