第三回 すごいグリースについて 前回は、グリースレスを随分と持ち上げて書いたからグリースが回転抵抗の元凶みたいな話になってしまった。 間違いなくグリースは、流体抵抗によってカートリッジベアリングの回転抵抗を発生させている。 グリースの目的とは、潤滑油をベアリング球とボールレースの接点に届けることである。そのため潤滑油をねっとりした増ちょう剤に含ませたのがグリースである。 長らくカルシウム石鹸やリチウム石鹸といった増ちょう剤が用いられてきた。 軸受けが高速で回転すると物凄い流体抵抗を発生させるので当然、発熱する。 温度が上がるとグリースの粘度が下がって液状化して漏れ出してしまうから常温ではある程度以上の粘度(ちょう度)に調整される。 古来より自転車のように低荷重で低速回転の場合は、より流体抵抗が少なくなる柔らかい、ちょう度000番(ケチャップくらいの粘度)とか0番(マヨネーズくらいの粘度)といったサラサラのグリースが好んで使われてきた。 低粘度のほうが抵抗が少ないだろうという概念的な発想だった。 誰もカートリッジ型ベアリングの閉じられた空間の中でグリースがどんな挙動をしているか観察する術がなかったからだ。 しかし近年、CT等の透視装置の発展と数値解析の登場によってグリースの挙動の詳細が明らかになった。 自転車用に開発された訳ではなく ハイブリッドカーなどの低燃費化のために登場した新しい考え方のグリースが名付けて「ラッセルグリース」である。 ある特殊な増ちょう剤によって軌道面を転がるベアリング球の脇にグリースがどいてくれる珍しい手触りの新型グリース。 軌道面をベアリング球が転がる際の微妙な発熱によって増ちょう剤から潤滑油が染み出す仕組みになっている。 脇にどいているから流体抵抗はほぼ発生しない。 さらにグリースだから詰め替えも出来るので長寿命でもある。 またグリースなので安価にできる。
【グラフ-参照】 カップ&コーン式の世界最高峰「デュラエース」について 市販状態のノーマルグリスとラッセルグリースについて動力損失を比較した図を掲載する。 50rpmまで回転が下がるのに要した時間がノーマルグリスは56秒だったのに対してラッセルグリースは92秒と大幅に回転抵抗が少ないことが解る。 このグリースの取り扱いで一つ注意点がる。 それは、目いっぱいグリースを入れてはならない事 カートリッジ内部のすき間に対して25%程度までしか入れず、あとは空間にしておく必要がある。 グリースを封入してから少しばかりの間、ホイールを回転させる事でラッセル車が雪を除雪したようにベアリング軌道の両脇にグリースの土手が出来上がる。 我々サイクリストは、少しでも走行抵抗を少なくして楽に速く走ろうと考える。 しかしこの「すごいグリース」は、自動車を低燃費で走らせることで二酸化炭素の排出量を少なくする目的で開発されてきた。 まあ自動車工業界のほうがグリースがたくさん売れるわけなので仕方がないか・・ その凄い開発競争の恩恵にあずかろう
【凄いグリース】この凄いグリースは、Russell GREASE という商品名で 30g 缶入り で販売しています。 ページ最下段の通販ボタンからお求め下さい。 2025年1月現在 残り僅かになりました。次回、入荷予定はありません。
インスタ,FaceBook,x などSNSやメルマガなどで連載中の「ベアリングの話」は、工業研究所の先生方の研究成果などをご紹介しながら自動車工業会で長年活動してきた知見を工業技術者という立場で解説しています。
【 ベアリングの話 】
カートリッジ型ベアリングに装備されている「シール」について そもそも何故シールが必要なのかを説いた上で接触型と非接触型について解説。自転車の軸受けにとってやはり水は大敵であって 軸受け内部への浸水をどう防いできたのかなど
ここ数年間、話題を集めているグリースレスベアリング 2000年初頭にはカンパニョーロ社のカルトベアリングもグリース不要という触れ込みで登場したもののやはり潤滑は必要だったとスタイルを変えた。 これほどまでに魅力的、かつ難しいグリースレスベアリングの利点と難点を解説。 近年のグリースレス型はどんな機構を採用しているのかについても紹介した。
前回、グリースレス型をたっぷり褒めた次は、最新型の高機能グリースについて紹介。 ベアリングが発生させる抵抗のほとんどがグリースによる流体抵抗であった事など驚きの事実が 最新型の高機能グリースはどうやって流体抵抗を減らしているのか その仕組みを明らかにする。
自転車の世界でベアリングの材質と言えばセラミックが中心的だが そのセラミックとはどんなもの さらにステンレス鋼、クロム鋼などハイブリッドベアリングについても解説
前回、解説したクロム鋼の熱処理について 「わずか50℃の違いが硬さを別ける」 熱処理の温度と金属組織の変化について 新潟県中央技術支援センターの研究成果を基に解説する。
軸受けの球あたり調整の際、ガタとプリロードの関係は競技用自転車の世界では、メカニックの腕の見せ所とされてきた。その勘所を工業技術者の視点でひも解く またカップ&コーン式のハブに発生するスピン摩擦についても解説した。
ベアリングの話 第3話 に登場する「凄いグリース」でシマノデュラエースのハブをチューンナップしたら抵抗がどのくらい減ったか?ノーマルのカートリッジベアリングから「BlueCeramic」に交換すると何%抵抗が減るのか 実測データ を公開
Copyright 2004- SMITH co,. ltd. All Rights Reserved.