第六回 アソビ(ガタ)について カートリッジ型ベアリングには、ラジアル方向とスラスト方向の両方に意図的なアソビがある。 今回はスラスト方向のアソビについて解説したい。 カップ&コーン式の軸受け構造のハブには、球当り調整という作業がある。 スラスト方向にガタがでないギリギリの状態にできるようにハブスパナで球当りを調整する作業だ。 プリロード(与圧)を与えてしまうとハブ軸の空転が重くなってしまうので球押し(コーン)とベアリングが触れるか触れないかギリギリの状態を探る伝統的な整備方法なのだがDT型カートリッジベアリング式のハブが台頭してからこの玄人肌の作業は必要がなくなった。 と思えるのだが実は、姿を変えて同様の原理で存在している。 カートリッジベアリング式の軸受け構造には、「せらす」という与圧調整が存在する。 この「せらす」が今回のお題「アソビ」に繋がる。 内輪と外輪の断面を描いた図1.を参照してほしい 内輪外輪の断面はベアリング球の半径よりほんの少し大きい半径(R)をしている。よってスラスト方向に少しだがアソビ(余裕)ができる。 寸法にして6/100mm程度だ。 このアソビは言い換えれば「ガタ」なのでガタを発生させないように内輪と外輪の肩でベアリング球に接触するように外輪を圧入する寸法を調節する。 カップ&コーン式ではハブスパナでやっていた作業を圧入工具でやるように変化しただけなのだ。 しかし指で回した際にハブ軸がシャーと回ることを何より好むサイクリスト達にとってこの肩と肩で接触する「せらす」は、許しがたい不都合を生んでいる。 それが「スピン摩擦」の発生である。 「ラジアル型深溝球軸受け」の最大の利点は、接触角が発生しないことである。 しかし実用上はせらして与圧を与えるため、接触角がついてしまいほんの少しスピン摩擦が発生してしまう。 接触角とは、軸受けの回転中心と直角な面と外輪とベアリングの接点と内輪とベアリング球の接点を結ぶ線が成す角度のことである。 古来より自転車用ハブでは一般的だったカップ&コーン型のハブであれば、構造上大きな接触角が基よりついている。(アンギュラコンタクト) この点だけを観れば、カートリッジ式ベアリング(深溝球軸受け)は、接触角がほぼ発生しないかごく僅かであることに意味がある。 ハブシャフトにガタがあっては困るので ガタがでないギリギリの圧入深さを工具を締める手の感触だけで一発で調節できる技量が求められる。 そうカートリッジ型ベアリングは、誰が整備したのか技量によるところが大きい。 CeraLight 超軽量ホイールを販売するプロショップの中には、頑なにこのチューニングにこだわって究極の球当りを実現する店長が何名か存在する。 ホイールメーカーからみれば、そこまでせんでもと言いたくなる。 1/100秒を競う競技の世界では、ごくごく僅かなメカニックワークの差が勝敗をわける。 プロスポーツではなおさらである。
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【 ベアリングの話 】
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