第五回 「わずか50℃の違いが硬さをわける」 熱処理について 前回、自転車用ベアリングの材料はより高硬度のクロム鋼を用いるべき ステンレス鋼は硬度が劣るので耐久性を得られないと書いた。 しかしより錆びにくいステンレス鋼をベアリングに用いることが出来れば、回転抵抗の小さいグリースレス式を発展させることにも繋がる。 日本は世界屈指の工業大国 いろんなところで先端研究が繰り広げられている。 新潟にある県中央技術支援センターで興味深い試験結果が発表されていた。 あらゆるステンレス鋼の中で最高の硬さを誇るSUS440Cというクロムを17%も添加したマルテンサイト系のステンレス鋼の熱処理温度と硬度の関係についての試験である。 炭素を含んだ鋼を硬くするための熱処理は「焼き入れ」といって赤色になるまで熱してから即座に水に放り込んでジュッとやるイメージだ。 しかしSUS420Cはクロム(Cr)を17%も含んでいるので焼入れ性が高いため水冷ではなく空冷である。 今回の試験は、その赤熱している際の温度50℃の違いが焼き入れ後の硬さにどう影響するのかについて調べたものである。
グラフ参照 2の1050℃でHRC60と最高の硬さを得ている。僅か50℃低くても高くても硬度が低くなっている事が解る。
顕微鏡 写真 参照 焼き入れ温度が高くなるにつれて、生地組織中(鉄Fe)に炭素(C)が取り込まれたまま固溶(マルテンサイト化)していることが観察できる。 最適温度を過ぎると一気に残留オーステナイト組織が増加して焼きが入りにくくなる。 出典:新潟県中央技術支援センター 技術トピックス http://www.iri.pref.niigata.jp/26new22.html この試験結果からステンレス鋼であっても熱処理温度の厳密な管理が出来ていればHRC60というクロム鋼並みの高硬度を得ることができベアリング材料として十分な耐久性を期待することが出来ると言えるだろう この辺りがどこのメーカーの製品であるかが大事と言われる所以である。熱処理の工程管理能力が問われるからだ。 私は国内のベアリングメーカーの製品であればまず間違いないと考えている。 軌道トルクを減らして「クルクル空回り」するグリースレスベアリングを使う際、水の侵入というリスクが伴うがクロム鋼より錆びにくいステンレス鋼を用いることでそのリスクは軽減できる。 ただし水が入っても安心とまではいかない 究極の競技機材を使用するということは、メリットを追求するかわりに厳密な管理を要するということである
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